オズの本棚

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30代中小企業診断士が自分が読んで役立ったビジネス書をご紹介。悩める若手〜中堅ビジネスマン向け書評ブログです。

【レビュー】「具体→抽象」の良事例が豊富!『戦略がすべて』

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評価:★★★★★

頭の働きを活発にしてくれる良い本です。時事評論の形をとりながらも、具体的事例をモデル化し、なぜそのような現象がおこっているのかを解き明かしています。1つの事例は10ページ前後とコンパクトですが、一つ一つが良くまとまっているので、読んでいて刺激が多い一冊でした。

戦略とはモデル化と考える

本書の著書は、コモディティ化を取り扱ったベストセラー「僕は君たちに武器を配りたい」の瀧本氏。本書でも、その小気味良い語り口で、身近な事象の戦略について分析されています。瀧本氏がいう『戦略』を僕なりに解釈すると、『モデル化』です。具体的事象を抽象化・構造化する、このようなモデル化思考を身近な事例で実践することで、戦略的思考が鍛えられるのだと思います。

ネットビジネスが炎上を生む構造

本書の取り扱っている24事例は、AKBやオリンピックから大学入試や地方行政まで幅広く、個々のモデル化事例も多岐に渡ります。その中の一例がネットが炎上するモデルです。そもそも炎上はインターネットメディアとしての構造上、起こるべくして起こる戦略があるというのです。それは、ネットビジネスのマネタイズ手法から考えると非常に筋が通ったモデルとなっています。マネタイズ手法の一つ、サイトPVに比例する広告収入型が炎上するのは、理解しやすいでしょう。PV数が売上に直結するからです。一方で、契約者からの有料課金型モデルでも、信者を探し出すために「炎上」を誘発すると展開しています。

最後まで騙し続けられる「カモ」を探し出すには、最初の段階で明らかにおかしいものを提示し、それでもおかしいと思わない人を選び出す必要がある。

<中略>

かくして、「炎上」を好む読者は、有料課金型のコンテンツビジネス にとって、良い潜在顧客になるのである。

<Ⅳ 情報に潜む「企み」を見抜け  P.138>

なるほどなぁ、と思わず感心してしまいました。なぜまともなブログを書いていた人が、段々と過激な主張をするようになるのか、合点がいきました。相手が何を重要視しているのか、相手の行動原理はどこにあるのかは、戦略という視点で考えると自身は騙されにくくなりますね。

最後は日々のトレーニング

どうしたらこのような戦略的視点が身につくのか。本書では、「多くの実践を経験すること」と結論付けています。他人と同じ戦略に陥らないためにも、身の回りの出来事に対して、「戦略的に勝つ」分析を習慣化することを提唱しています。確かに、おっしゃる通り。あとは実践あるのみですね。

まとめ

なんというか、人間社会に関することであれば、その背後には必ず人間臭さが潜んでいることを改めて認識させられる本でした。あまり裏を読みすぎる人になると、アレですが…。人とはちょっと違った、でも思わず納得してしまう、そんな思考を身に付けたい人にはぜひともオススメしたい一冊ですね。

【レビュー】証券業界志望なら読みたい『超一流アナリストの技法』

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■評価:★★☆☆☆

「アナリスト」というタイトルに興味を抱き購入しましたが、Webや統計データ分析というよりかは、金融業界のアナリスト向けの本でした。ちょっと、僕が望んていた感じの方向性ではなかったので評価は星2つです。これから、証券業界、金融業界に飛び込む方の入門書としては良いかもしれません。僕は中小企業診断士の試験で勉強していたこともあり、実務向けのパート内容は、確認程度に流し読みしています。

■概要

著者はトップアナリストであった野崎氏。日経アナリストランキング1位の常連だったそうです。著者の心構えや実務的なTIPSなど一般化して応用できそうなパートと、金融業界の具体的な分析側面が強い証券アナリスト向けのパートに大別されます。

■生活を俯瞰するTIPS

本書の半分は、一般ビジネスパーソンにも応用が利く話という印象です。著書は、良い仕事をするためには、オン・オフ切り替えが必要だと主張しており、そのための時間管理や思考方法が紹介されています。

僕が一番感心したのは、日々の振り返り方。1日の行動を時間と効用に分けて加重平均するというものです。そうすると公私を含めた1日の純粋な評価が出てくるというわけです。実際、僕のある1日は、下の表になりました。うーん、ちょっと個人のパートの使い方が改善余地ありそうですね。

項目 時間 割合 効用 評価
仕事 9 38% 2 0.75
移動 1 4% 1 0.04
家族 4 17% 5 0.83
個人 2 8% 2 0.17
睡眠 8 33% 3 1.00
合計 24 100% - 2.79

■必要条件と十分条件

本書の実務部分のパート部分は、その構成がとても参考になるなぁと思いました。証券アナリストにとっての必要条件と十分条件はどのようなものかという問いを立てています。読んでいて、「あれ?必要条件と十分条件ってどっちがどっちだっけ?」と混乱しちゃいましたが、このあたりは、グーグル先生にお伺いすれば、良い例えがたくさん見つかります。僕が参考にしたのは下記ブログの記事が分かりやすかったです。

blog.donaldo-plan.com

■自分の仕事を客観視する

証券アナリストの必要条件、十分条件自体は、普通のビジネスパーソンにはあまり関連がありません。ですが、自分の仕事に置き換えた場合、必要条件と十分条件を考えることには意味があるのではないかと思います。特に、十分条件を生き残り条件と勝ち残り条件に分割して考える思考法は、今まで考えたことがないフレームワークだったので良い発見でした。

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■アナリストレポートはネタの宝庫!?

門外漢とはいえ、これまでまったく未知の世界であった証券アナリストの世界を知ることができたので、アナリストレポートを読んでみました。とりあえず、無料レポートで読めた楽天証券のカジノ法案通過に合わせてでてきたレポート。ラスベガスのカジノ産業と今後日本での展望がびっしり書いてあります。初めて読んだ感想は、結構参考になるという感じでした。アイスブレイクのネタとして、情報を仕入れるにはいいかもですね。

■まとめ

アナリストレポートという情報ソースを新たに知れたのは良かったです。データ分析にまつわる部分は、おそらく金融業界志望の方が読めば参考になるのでは…という内容です。Webマーケティング的なデータ分析を期待して読むとちょっと違うかなぁという感じですね。

 

【レビュー】勝てる野球の統計学

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評価:★★☆☆☆

野球という競技を統計学に基づいて指標化したものをセイバーメトリクスと呼びます。本書のポイントは、勝利に結びつく要素を抽出する方法です。野球をどのように構造化していくのかがビジネスにも応用できるのではと感じました。107ページと薄い本なので、あまり時間を掛けずにサクサク読めました。

概要

2003年、データを駆使して貧乏球団の奮闘記を描いたマネーボールという小説が話題になりました。それから10年以上経ち、データ分析も日々進歩を見せています。それがセイバーメトリクスと呼ばれる分析手法です。本書では、その分析手法の数理的背景を平易に解説しながら、勝利に貢献する指標を紹介しています。

読む人を選ぶ一冊です

まず、最初に言っておきますが、この本は野球に興味がないと呼んでいても面白くないと思います。野球というスポーツを知らないと構造化のアプローチが理解できない。ですが、野球好き、もしくは野球のルールを人に説明できる程度の知識がある人にはオススメです。

スポーツの構造化

本書を読んで一番面白いのは事象を構造化する過程が見えることでした。野球というスポーツは、3つのアウトを取ろうとするディフェンス側と4つの進塁をさせたいオフェンス側の攻防です。1つのアウト、1つの進塁にどれくらい得点に影響があるのかを客観的に分析するために、アウトカウントと塁状況の全24パターンの組み合わせの状況下での得点期待値を算出するという考え方は思わずそうかと頷いてしまいました。

さらにどの程度得点を取れば1勝分の期待値が上がるのかを統計的に導き出し、10得点が一つの目安と算定されることで、オフェンス指標は得点算出能力が、ディフェンス指標は失点防御能力が勝利への貢献へと変換される仕組みとなっています。

このロジックの立て方でプレゼンされると、非常に納得感が高いですね。ジャンルは違いますが、その昔流行った「科学する麻雀」と似た雰囲気を感じます。勘やセオリーといったアナログ的手法ではなく、得点期待値に基づいてアガリを目指す戦法です。これも麻雀を知らない方には分かりづらいですね。失礼しました。

計測できるものしか分からない

本書では、セイバーメトリクスで頻出するOPS、K/BB、URZといった打撃、投球、守備の指標が説明されます。 ただ、これらの指標は、手動で測定されたデータを元に算出されているんですよね。ということは、今後測定機器が発達することで、まったく新しい指標が誕生するはずです、きっと。測定できないものは何も分からない。データの大切さを読んでいて痛感しました。

まとめ

統計学と表題にはありますが、そこまで突っ込んだ数学は出てこないので、期待値の考え方さえ分かっていれば、数学が苦手な方でも十分楽しく読み進められます。むしろ野球に興味がないと、読み進めるのは厳しいかもしれません。また、扱っている内容も2013年度のデータなので、ちょっと古めです。発刊当時からすれば、インターネット上でもセイバーメトリクスの解説は充実していますので、入門書 or 教養書的な位置づけで読んでみるといいかと思います。

各指標はネットでググってみると詳細な説明が書いていますので、ご興味がある方はそちらもご覧いただければ面白いかと思います。

【レビュー】LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略

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評価:★★★★★

これからの数十年続く人生を考える上で、とても良い気付きを得られる一冊でした。寿命が100年まであったとしたら、祖父母世代、親世代とは全く違う人生プランを考える必要があります。30代前半の自分にとっては、どのタイミングで自分自身に再投資すべきかを考えるきっかけになりました。

概要

著書のリンダ・グラットン氏は人材論、組織論の世界的権威です。働き方についての展望を描いた「WORK SHIFT」もベストセラーとなっています。本書では、長寿社会を迎えた現代社会において、これまでロールモデルとして機能してきた教育→勤労→引退という3ステップは通用しなくなる中で、勤労・教育・子育て・お金についての関わりかたについて、共著者の心理学者とともに語っています。  

 100歳生きるのも夢じゃない

本書の主題は100年ある人生をいかに生きるべきかです。世界の平均寿命は過去200年間で、右肩上がりで延びており、10年ごとに2〜3年のペースで寿命が延びている計算だそうです。日本人の平均寿命は、2015年調査で、女性87歳、男性81歳。これを単純に適用すると、2050年には女性97歳、男性91歳となっています。100歳まで生きることは、SFでも何でもなく、リアルに起こり得ることなのだろうと思います。

人生のシナリオ

長寿化によってもたらされる恩恵はたくさんある一方で、労働や老後資金に関する問題も引き起こします。このような問題は、現在主流となっている教育→労働→引退という3ステージ型のシナリオを適用しようとするから発生すると、著者は主張しています。

人生設計を80歳で設計するのか、100歳で設計するのかは大きく違います。プラスとなった20年をどのように活用すれば良いのか。当然、残された時間は人それぞれ。特に若い世代に関しては、意図的に変化を目指す人生を推奨しています。なぜなら、一つのスキルに頼って50年生活費を稼ぐのは非現実的だからです。もし仮に、大学院を出て就職し、余生を15年生きるとしたら、100年社会では85歳、65年間労働しなければなりません。正直、そんな働き方、心身ともに持ちません。

これからは、10年〜20年をワンステージとして、様々なステージを組み合わせる生き方が主流となるはずです。当然、激務で仕事に打ち込むステージもあれば、家族の交流を優先するステージもあるはずです。僕も、一年間仕事をせずに、大学院入りましたが、そのように自己のスキルを再開発することも必要になっていくのでしょう。

また、いくつものステージを渡り歩くシナリオを作成するためには、過去と未来をつなぐアイデンティティが必要になると主張しています。

このシナリオで見落としてはならない重要な要素の一つは、アイデンティティだ。人生で多くのステージとキャリアを経験するようになれば、その全て貫く一本の柱をいっそうしっかりもつ必要が出てくる。そのような柱があってこそ、人生のシナリオが真の意味で自分のものになるのだ。

<第5章 新しいシナリオー可能性を広げる P.215>

就職活動や転職活動などでもよく聞かれることですが、それがより人生という広範囲にわたって必要となってくるのでしょう。

パートナーが一番大事

もう一つ、本書を読んでいて気付かされた点をご紹介します。それは、どのようなシナリオを渡り歩くにせよ、最小の核となる単位はパートナーとの2名であるということです。 100年ライフでは、変化に富む人生を送るわけで、当然、経済的に辛い時期や心の支えが必要な時期がやってきます。その際は、パートナーと柔軟に役割を変更するといったパターンも出てくるわけです。

当初、僕はこれまで最小単位は、家庭かと思っていたんですね。パートナー+子供という単位です。でも、100年生きる場合、人生における子育ての構成比って実は結構少なくなるんだと認識し直しました。子供に手がかかる時期は案外短い時間で、だいたい15歳にもなれば、自分の人生を決めることができると考えています。そう考えると、人生の半分以上はパートナーと一緒にいることになるんですね。だからこそ、健やかなるときも病めるときも、共に支えあっていくパートナーが重要になってくるのだと再認識しました。

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まとめ

これまでスタンダードであった価値観は、100年ライフには適合しません。人生の途中で、家庭を優先したり、数年がかりで勉強しなおしたり、企業を通じて人脈という資産を築いたりと様々な道筋が考えられます。本書では、そのような生き方をするためには、高いスキルが必要であると語られています。他方、旧来と同様の労働モデルを、負荷を低めながら50年続けていく人々もいるだろうと予測されています。自分が一体どのような道に進むのか、時間がある内に常日頃から考えておく必要があるなぁと感じされられました。

【レビュー】未来化する社会

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評価:★★★★☆

この本は、未来について、考えさせられる一冊です。著書自身が、1990年代の学生時代にどんな本が読みたかったかという問いに対して、インターネットやデジタル化が進んだ現代の主要産業が知りたかったという思いから、2035年前後における世界の主要な産業と技術について、具体的に予測されていて面白かったです。

概要

 原題は「THE INDUSTRIES OF THE FUTURE」。著者は、2008年米国大統領選でオバマ陣営のメディア政策を担当したアレックス・ロス氏。国務省時代に、長官のヒラリー・クリントンの元で、外交政策イノベーションの専門家として世界を飛び回っていたという経歴の持ち主です。本書では、世界のトップやイノベーターとの会話から出てくるエピソードが紹介されているため、そのあたりが読み味に深みを持たせてくれています。

ポスト・インターネット革命

これまでの20年間、世界はインターネットと共に発展していきました。本書では、インターネットの発展によってもたらされたグローバル化よって、多くの人類が中流層へと生活を向上させることができたと主張しています。一方で、これからの20年間では、持つものと持たざるものの格差がより拡がっていくと指摘しています。では、一体何を持つべきなのか。その問いに対して、最終的には「人」の資質を活かせる環境にあるかどうかであると述べています。

これから仕事をするならココ

本書の構成は、6つのトピックスに分けられています。これからの生活を大幅に変えるロボット技術とゲノム産業。これまで難しかった市場・貨幣・信用のデジタル化。デジタル化の発展により、これまで以上に重要になるサイバー・セキュリティ技術。加えて、それらの技術が指数関数的に排出するビックデータの解析技術。そして、上記のような産業・技術を活用するための社会的な土壌について、語られています。ざっくり本書の構成をイメージしたのが下記の図です。

 

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これからを生きるために必要なもの

本書の最終章には、ロス氏が世界の著名人たちにインタビューの際に必ずしたという質問が掲載されています。その質問の内容は「将来の経済に身を置く子どもにどのような資質が必要になるのか」というものです。回答にはなんとなく共通していそうなものがあり、例えば、多文化をまたいでいく素養や技術の言葉を理解すること、分析力、昔ながらの一般教養などが挙がったようです。その中で、一番刺さった言葉が次のフレーズです。

経済の多様性が増し、変化の速度が速まるなか、グローバルビジネスの投資家も当事者も、新たに労働力になる若い人たちと同じように、機動性を備え、文化をまたいで活躍できなければならない。

<終わりに この世で最もだいじな仕事 P.371より>

いくつになっても、若い人たちと同じ視線にいないといけませんね。子どもだけでなく、20年以上生きると思っている方は必見です。

まとめ

ショートショートの神様と言われている星新一の世界観、僕は大好きです。ロボットや不老不死の薬などが出てくる物語を幼い頃から読み耽っていました。そして、その世界が徐々に現実のものとなってきています。本書を読みながら、50代前半の自分自身の姿を想像すると、このままの延長線で仕事をするのではなく、早いタイミングで、仕事の領域を拡張していくべきかと思いました。

 

 

【レビュー】カルチャロミクス

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評価:★★★☆☆

ビックデータの分析技術を人文科学に適用すると、一体どのようなことが分かるのかを具体的に語っている一冊です。Googleが提供するNグラム・ビューワーというシステムを使うことにより、これまでとは全く新しい本の分析手法が紹介されています。データ分析は私たちの身近な部分でも活用できるなぁと空想が膨らみました。

誰でもデータ分析ができる!?

学問には、自然科学・社会科学・人文科学という3つの分野があります。人文科学は、哲学・論理学・歴史学言語学など一般的に文系と言われる学問をイメージすると分かりやすいかと思います。人文科学について、wikipedeiaでは次のように説明されています。

広義には自然学が学問的対象とする自然(nature)に対して、人間人為の所産 (arts) を研究の対象とする学問であり、またそれを可能にする人間本性(human nature)を研究する学問である。

<wikipedeia 人文科学>

人文科学で取り扱うデータは、人間が産み出したものが対象です。ですので、データ取得がとても大変。その点、本書で紹介されているNグラム・ビューワーでは、Googleがスキャンした過去数世紀に渡る書籍データを元にして、コンピュータでいつでも簡単にデータが取り出せるそうです。で、一体何ができるんでしょうか。

テキストは人類の考え方の断面図

Nグラム・ビューワーでは、ある一つの単語が、10億語あたり何回出現するかを教えてくれます。これは実際にみた方が理解しやすいので、”蒸気機関車(steam locomotive)”という単語を調査してみました。

 

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蒸気機関車”は1800年初頭に発明されたのですが、最初は全く出現しません。1840年以降から、徐々に出現頻度が高くなってきており、1950年代でピークを迎えます。現在では、一般的に使われる頻度は最盛期の半分以下となっています。こうしてみると、ある特定事項が人々に対してどこまで浸透しているのかが理解しやすくなっています。

本書では、Nグラム・ビューワーを利用して、英単語の不規則動詞の歴史や著名人の名声、発明品の社会への浸透具合まで、様々な対象を分析しています。これらを分析するにあたり、今後、人文科学の世界でも大量のデータを活用した科学的手法は必須となっていくのでしょう。

まとめ

最も衝撃的だったのは、Nグラム・ビューワーが無償公開という点でした。誰でも単語打ち込むだけで、簡単にデータを取得できます。早く日本語版も公開してほしいものです。このような無償公開が可能になっているのも過去データを元にしているからですね。現在、巷には書籍以外にも様々なテキストデータが生み出されていますが、これらを同様に活用するには、著作権やプライバシーといった権利関係を整備しないと活用が難しいと本書でも指摘されています。きっとそのあたりはGoogleさんが頑張ってくれるのではないかとひそかに期待しちゃいますね。

 

【レビュー】IoT時代の衝撃

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評価:★★★★☆

巷でよく聞くIoTが、今後の企業行動にどのような影響を与えるのか。「モノのインターネット」と言われるIoTが題材なので、主に製造業を事例に取り上げられています。経営学では超有名人であるマイケル・ポーター氏が、自身の理論である5フォース戦略に沿って解説しているパートは読んで面白かったです。

概要

ハーバード・ビジネス・レビュー2015年4月号および2016年1月号のIoTに関する論文が書籍化された一冊です。内容はIoTの概要説明から始まり、IoTによる競争戦略の変化および企業組織構造の変化、そしてその実例としてGEの取り組み紹介、最後にIoT時代におけるデータ所有のあり方について、総勢6名の研究者の論文が掲載されています。

新しい競争戦略の選択肢

「計測できないものは管理できない」という有名な言葉がありますが、裏を返すと、「計測できると管理できる」ということですよね。これまでトラッキングのテクノロジーはWeb界隈で発展していましたが、インターネットへの接続機能を持つ製品が普及することにより、ビジネスが大きく変化することは想像に難くありません。本書では、そのような変化に対応するために、10個のチェックポイントを挙げています。僕が理解しやすいようにポイントを意訳しています。

  1. どのような機能や特性を追求するか
  2. 機能をハードに搭載するかクラウド化するか
  3. システムはオープンかクローズか
  4. 機能とシステムは内製か外注か
  5. 有益データの定義・収集・分析方法をどうするか
  6. データの使用権・アクセス権の管理をどうするか
  7. 流通チャネルを中抜きするか
  8. ビジネスモデルを転換するか
  9. データ販売による新規事業を起こすか
  10. 事業の範囲を拡大すべきか

上記のポイントは、相互に影響し合う要因ですので、企業自体がどのように変化していくべきかの方向性が必要となってくるのでしょう。当然ながら、本書にも次のような記述がありました。

製品ネットワークの数や多様性が増大し、各ネットワーク内で製品同士がコミュニケーションと協働を続ける状況の下、多くの企業は主な使命と価値提案を問い直す必要があるだろう。

<第2章 IoT時代の競争戦略 P.92>

これまでの延長線上の仕事をしていては生き残っていけないということなんでしょう。そうなると当たり前ですが、企業内部の仕事にも変化が訪れるわけです。

社内組織も変わる

本書では、既存の製造業において、統合型データ部門、開発運用部門、顧客成功管理部門という新たな部門の必要性を説いています。統合型データ部門は、データを取り扱う専門部署。開発運用部門は、R&D、IT、製造、サービスの各分野を統合する部門で、製品の更新やサービスの高度化などを部署横断型で取り組みます。顧客成功管理部門は、従来の販売・サービス部門ではインセンティブが働かない顧客体験の向上に取り組む部署です。これらは、ソフトウェア業界での組織体制を参考にしているようですね。モノのインターネット化なので、ソフトウェアの運用方法がしっくりくるのでしょう。

データを取り扱うために

僕が最も興味深く読み込んだのが、アレックス・ペントランド氏へのインタビュー記事「データは誰のものか」です。ペントランド氏はIoT社会が到来する前に、データ所有に関してのルールを整備しておく必要があると主張されています。この主張を「データのニューディール」と呼んでいるのですね。初耳でした。しっかり覚えておきます。

様々な夢が語られるIoT社会の大前提は、「データは企業に属する」ことが前提となっています。この前提が一転して、「データは個人に帰属する」となった途端に、ビジネスが破綻します。今後多くのビジネスでリスクとして認識されるのではないでしょうか。

まとめ

大局観を養うような本は良い思考の訓練になりますね。休日にゆったり読むことをオススメします。しかしながら、本書の論文が初めて発表されたのは2014年11月号のHarvard Business Review、日本版に掲載されたのが2015年4月号ですので、タイムラグが約半年弱。やはり最低限、英語は読めるようにならんと差がつけられることを実感した一冊でした。