オズの本棚

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30代中小企業診断士が自分が読んで役立ったビジネス書をご紹介。悩める若手〜中堅ビジネスマン向け書評ブログです。

【レビュー】ビックデータの残酷な現実

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評価:★★☆☆☆

出会い系サイトのデータ分析が元になっているので、年齢や容姿といった人間の本性が分かる面白い分析テーマが多いです。一方で、人種や性的指向といった日本ではあまり目にすることがない視点は正直、ピンとこない部分があります。こんな視点からもデータ分析ができるのかぁと眺める分には面白い本だと感じました。

概要

著書はアメリカの大手出会い系サイト「Okキューピッド」の創業者であるクリスチャン・ラダー氏です。相性の良い相手と出会う目的のサイトに蓄積されたデータには、個人の率直な感覚が溢れています。表立って口に出すことを躊躇してしまう人間の心の底をビックデータで分析しているのが本書となります。

データで分かる人間の本性

ラダー氏は、この本の目的を「自分自身の心と向かう」ためだと述べています。本書では次のような分析テーマを紹介しています。

  1. 人を結びつけるデータ(年代要素、外見的魅力など)
  2. 人を区別するデータ(人種、深層心理など)
  3. 人を交わらせるデータ(性的指向、地域性など)

Okキューピッドでは、マッチングシステムを利用するために、好みのタイプや人種や政治・宗教思想といった質問が実施されます。利用者は自身によりマッチしたパートナーを紹介されることを望むため、自らの心の声に忠実に従いやすくなると想定されます。その結果、女性は加齢とともに、パートナー対象となる年齢が上がる一方で、男性はどの年代も満遍なく20歳が最も好きという身も蓋もない結果などが導き出されています。

アウトプットの見せ方

本書の内容は、どこまで科学的研究かと言われると、微妙なところかと思います。しかし、分析のフレームワークは参考になります。散布図や箱ヒゲ図といったデータの見せ方は、実際のビジネスでの資料作成に応用できそうです。ビック・データの分析結果が、「出会い」「恋愛」という身近なネタで表現されているので、データ分析への興味はそそられるかもしれません。僕はもうそそられているので、「へぇ〜」という感じでした。

 まとめ

本書の元ネタは、Okキューピッドのブログ「OkTrends」でしたので、各章、各テーマで話題がぶつ切りになってしまう印象を受けました。全部一気読みしましたが、最終的に何かはっきりとした結論があるわけではなく、あぁ今後データ活用はますます進んでいくのだろうなぁという月並みな感想に留まってしまったのがもったいない部分です。あとがきにも書いてあるように、あくまでデータサイエンスに親しみを持ってもらうために、難しい専門用語や理論は避けて書かれています。しかしながら、親しみを持たせるためのテーマ(同性婚や人種問題など)のバックボーンを僕は持っていないので、完全に楽しみきれなかったという思いが残る一冊となりました。

 

【レビュー】子どものUXデザイン

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評価:★★★☆☆

お仕事でアプリを取り扱う関係上、デザイナーさんの仕事ぶりを間近で見る機会に恵まれています。彼らの制作物については、かなり緻密に計算されているのですが、僕は全くその方面に疎く、その仕事をより深く理解したいと常々思っておりました。本書は、年代別の子どもの特徴から、どのようなデザインのアプローチをしていくのかという点が分かりやすく取り上げられていて、思わず購入した一冊です。

概要

本書の著者であるデブラ・レヴィン・ゲルマン氏は、子どものウェブサイトのデザインに従事している中で、大人と子どもの間にある差に注目しながら、デジタルクリエイティブを制作する必要に気付いたそうです。本書では、大人と子どもと相違点や共通点を紹介しながら、各年代別に最適なシステム設計や表現法がまとめられている一冊です。主に子ども向けのウェブサイト・アプリに携わる人々の実用的なハウツー本となっています。

10年間の成長過程

小さい子どもと接してみると、「本当に同じ人間なのか!?」と思う場面が多々ありますよね。アプリのデザインでも、どうやらその傾向は同じようです。特に子どもの場合、思考能力や身体能力が数ヶ月でアップデートされていきますので、1月前に夢中になっていたゲームもあっという間に飽きてしまう可能性があります。この本の中では、2歳区切りに合わせ、年代別の行動促進のポイントがまとめられていました。あれ…この年代別のアドバイス、どこかで見聞きしたことがあるなぁ。ふとした思いつきですが、各年代別のポイントが社会人にも当てはまるんではないかと思い、下の表でまとめてみました。

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社会人の年代区切りは僕の経験で区切っています。人が一定の成熟するまでの10年間は、子どもも大人も同一なのかもしれないと感じました。

子どもも大人も変わらない?

本書の中で、子どもと大人の相違点を詳しく説明していますが、一方で、両者の共通点も挙げられています。

これまで挙げたとおり、大人向けデザインと子ども向けのデザインにはさまざまな違いがありますが、一方で類似点もあることを知っておいて下さい。たとえば以下のようなことです。

◎一貫性

◎目的

◎余計な驚き

◎おまけ

<第2章 学びと遊び>

 これらの共通点は、性別や年齢、文化的背景も飛び越えて、何かの行動を継続して行いたいと思わせる秘訣なのかと思います。仮に、僕が新入社員の教育研修を担当することになった場合、上記4つのポイントを意識して研修プログラムを組み込みたいですね。

「負け」の捉え方

もう一つ、この本を通して、改めて考えさせられたポイントが「負け」の捉え方です。本書では「負け」を避け続ける教育に対しては、否定的な立場です。

問題は、大人である私たちが、「負け」をよくないエクスペリエンスとする考えにとらわれすぎ、その考えを子どもに浸透させたことです。もし大人が、「負けてもOK」、「物事を学ぶいい機会」という姿勢であれば、否定的な姿勢をとり続けるよりも、子どもははるかにいい成長を遂げるでしょう。

<第5章 4〜6歳 ”どっちつかずの中間層”>

この「負け」を許容する姿勢、4〜6歳向けの章で書かれております。この姿勢はいつまで続けるべきなのか。「負け」を許容する環境から、しかるべきタイミングで「勝ち」にこだわる姿勢も身につけさせないと勝負弱くなってしまう気がしてしまいます。ビジネスの世界では、「勝ち」と「負け」のバランスがかなりシビアになるので、「勝ち」にこだわる姿勢は、自身の中で確立しておきたいところです。

まとめ

それぞれのデザインにはどのような狙いがあるのかが、子ども向けのUXデザインを通すことで、デザイン門外漢の僕にも、特徴を分かりやすく理解できました。また、iPadなどのデジタル機器で子どもがゲームをするのが日常的背景となっている今日この頃、ユーザー視点でアプリを評価するポイントが養われたことも良かったかと思います。

【レビュー】コンセプトメイキング

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評価:★★★☆☆

どうしても中身の薄い企画しか思いつかないで悩んでいる今日この頃。前回紹介した『企画書は手描き1枚』という本では、要所要所で「コンセプトが大事です」と書かれていたのですが、肝心のコンセプトについてはあまり詳しく触れられていませんでした。「そのコンセプトが思いつかないから苦しんでいるですよー!!」という声が届いたのが、書店には続きの本が置いてありました。それが今日ご紹介する『コンセプトメイキング』です。

概要

著者の高橋氏は、元博報堂の制作部長さんです。本書は、『企画書は手描き1枚』と同じ出版社からの発刊ですので、姉妹作のような位置付けですね。今回も手描きシートによるコンセプト86事例が掲載されています。元々コピーライターとして、博報堂でのキャリアをスタートさせていますので、本書でも多くの事例を見て学ぶという原始的作法を疑似体験させる狙いがあるようです。

コンセプトの定義

そもそもconceptという言葉、「しっかりと捉えられたもの」という中世ラテン語が語源だそうです。概念とはふらふらと変化するものではなく、全体の芯として貫かれる考え方を表しています。ちなみに本書での「コンセプト」という言葉は次のように説明されています。

要するに「コンセプト」とは、概念、着想にとどまらず「時代が求める新しい価値観の提案であり、その考え方はすべての行動の指針となる」と定義してみました。

<PARTⅡ 「コンセプト」って、何だ? P.24>

語源の意味にプラスアルファの要素として「新しい」という要素が加わっています。そもそもコンセプトという用語が必要な場面は、「核となる部分」が定まっていない状況でしょう。だからこそ、コンセプトという言葉が登場する時は、「しっかりと分かっていないけれど何か新しいもの」という意味で使われのでしょう。

閃き…閃き…

本書では手描きのコンセプト事例が次から次へと紹介されています。それらを眺めていると、共通のフレームワークが頻繁に登場することに気付きます。認識→洞察→閃き→言語化というステップを踏んでいきます。あれ、ここでも一番知りたいと思っていた「閃き」が1ページしか割かれていない…。情報の組み合わせで新しい閃きが生まれると書いてありますが、うーん、閃きの道はまだまだ険しそうですね。

 

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賞味期限を意識することが大事

コンセプトは主体と客体の重なり合う部分を組み合わせることで発見した閃きを言語化したものです。でも、ここで僕はこんな風に思いました。自分も企業も時代も社会もあらゆるものは常に変化し続けるはず。ということは、コンセプトにも賞味期限があるのかと。本書でも多くのコンセプト事例が紹介されていますが、それらは当時の企業が置かれた状況や空気感があって初めて意味を成すものですし。富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」という事例は、70年代に作られたそうです。なぜモーレツから変化しなければいけなかったのか、コンセプトから当時の社会環境を逆算することも自分の考えの柔軟性を高めることになるのかと思います。

まとめ

コンセプトという言葉は、短期的視点では変わらない強固なものとなり、長期視点では賞味期限を意識するものであったりと、どのような時間軸で語るのかにより変化するものだと思います。自分がどのような時間軸の立場から「コンセプト」を考えているのかは意識して使い分けしたい言葉ですね。 

【レビュー】企画書は、手描き1枚

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評価:★★★☆☆

企画書、超絶悩みます。デジタル化が進んだ世の中で、簡単に企画書の使い回しが効くようになっています。一から企画書を作るよりも、既存の企画書を流用したほうが手間が省かれ、流用のお化粧スキルだけが上手くなってしまいます。その結果、新規のアイディアが創れない悪循環に陥ります。そんなデジタル化デメリットの悩みを抱えている中で、「手描き」というフレーズにひかれたのが本書「企画書は、手描き1枚」でした。

概要

著者は元博報堂制作部長でもある高橋宣行氏。本書では、アイディアと共に自分も売るという企画の作り方や、高橋氏が実際に使用していたA4一枚の企画書が20例近く紹介されており、シンプルだけど納得感の高い企画書とはどういうものなのかが分かりやすく実感できると思います。この本の個人的なツボは、手描きシートのペンの太さ。ボールペンのような細いサイズの線とサインペンのような太い線のメリハリの付け方はこっそり参考にさせてもらっています。

想いをのせた手紙

副題に「恋愛型プランニング術」と掲げられているように、とにかく相手を想うことを強調しています。ビジネスライクな世界観ではなく、持続的な関係構築をするためには、恋愛のように相手を想い続けることが必要だと述べています。

伝えたい相手の顔を思い浮かべ、気持ちを探り、心のヒダに入り込む。相手をどこまで惚れさせるか。相手が分からなくて何を書こうというのでしょうか。

<第1章 深まる恋愛型経済 P.12>

ラブレターに限らず、手紙を受け取ると物凄くズシリと感情に響きます。印刷された文章は簡単に捨てられるのに、手書きの手紙はなかなか捨てられません。それは、相手が自分のことを想いながら書いていることが伝わるからだと思います。そう言われてみると、30枚の印刷された企画書よりかは、1枚の企画書をもらったほうが嬉しいと感じるのでしょう。

相手を想う自分も売り込め

また、本書の特徴として、発想法のTipsに終始するのではなく、企画書に自分らしさを盛り込む視点を重視していることが挙げられます。本書後半で展開される「自分の売る」のパートでは、愛され続ける視点と題して、15の項目が挙げられています。その中で、僕がジーンときたのが「相手の本心は読めているか」という視点です。

ビジネスには制限、制約、ルールが多い。それを打ち破り、どうクリアするか、企画の面白さはここにあります。

<中略>

そこで柔軟に考えられる立場を存分に利用するのです。外の視点です。相手の気づかなかったを気づかせる、見えなかったものを見せてあげる…。

<第5章 恋愛型企画書の作り方(PART2 [自分を売る] P.96 )>

アイディアの本質は、意表をつくことであるとはよく言われることですが、外部アドバイザーである自分にとっては、ヨソモノ視点が逆に強みであるということを常に意識していきたい部分ですね。

まとめ

手描きというコンセプトにこだわったの本書ですが、その真髄は相手をどれだけ想うことができるのかだと感じました。手描き1枚で毎回商談に望むのは厳しい戦いがあるかもしれませんが、あなた(と所属組織)のことを考えていますよという素材として、またはここぞという時のパフォーマンス用飛び道具として、手描き企画書を作成する術は学んでおきたい手札だと思いますね。

 

【レビュー】マーケティングオートメーション入門

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評価:★★☆☆☆

新規営業においては、いかに優れた顧客リストを手に入れるのかが重要となってきます。当然ながら、質と量の両方を満たすリストであることは言うまでもありません。その昔、新規営業を経験した時は、凄い精度のリストを渡されて、驚愕した経験も良い思い出です。近年、質の高い顧客リストを、手間ひまをかけずに生成する目的で発展してきたのが本書で紹介されているマーケティングオートメーションです。

概要

著者は、電通デジタルの前身である電通イーマーケティンです。2015年7月初版ですので、デジタル系としては、やや古めとなりますが、マーケティングオートメーションとはどのようなものか全くわからない僕のような人間には分かりやすい解説書でした。

デジタル化による購買行動の変化

営業部門に渡される見込み顧客リストは、取扱商材や所属業界、法人個人といった様々な切り口があります。おそらく皆様の会社でも、一定のコストを掛けて作成しているのではないでしょうか。この見込み顧客の獲得ですが、昔はとりあえずマス広告を打って顧客の反応を待っていたり、資料請求が来てからリスト化したりと、随分ゆっくりとした時間感覚で進んでいました。ところが、デジタル化が進行していくにつれて、リード獲得から成約までの時間が一気に素早くなっています。加えて、見込み顧客自身が情報収集を行いやすい状況にいるため、購買前情報収集を十二分に行った上で、ほぼ購入が確定した段階で連絡してくることも考えられる環境となっています。

なぜマーケティングオートメーション

デジタル化により、様々なチャネルへのアプローチを実施しながら、個々の見込み顧客に、素早く適切なマーケティングを実施する必要が出てきました。そこで、これまでマーケターの感覚や経験によって実行していた作業を自動化する仕組みが必要となってきました。ここで登場してきたのが、マーケティングオートメーションというツールということだそうです。見込み顧客の評価・選択、メール配信からアクセスログ取得、レコメンドコンテンツの出し分けまで一気通貫に行えることが特徴として記述されています。例えるならば、産業革命以前の家内制手工業から工業製手工業への転換がマーケティング部門でも起こったようなイメージですかね。

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シナリオとスコアリング

本書では、MA導入において重要なことは、どのようなシナリオを用いて顧客を獲得するのか、そして個別のシナリオ分岐を実施するための、分岐地点の重み付けをどのように設定するのかと主張されています。僕は実際のMAを使用したことがないので推測になってしまうのですが、結局最後は属人的要素がに左右されてしまうのかなぁとういイメージでした。となると、シナリオ読み間違えや重み付けの失敗などが発生すると、うまくいかなくなってしまうのかなぁという印象でした。素人考えで申し訳ございません。どなたか実務で携わっている方がいらっしゃれば是非このあたりを教えていただきたいです!

まとめ

2014年あたりからマーケティング界隈では盛り上がってきたマーケティングオートメーションですが、今後はこのツールに加えてAI技術によるシナリオ作成やスコアリング設計が重要っぽいのかと感じます。前提となるこの仕組み・考え方自体は知っておいて損はないかと思います。一営業マンの立場からでは、このあたり一冊読めば十分かなと思いました。

 

【レビュー】確率思考の戦略論

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評価:★★★★★

休みに入るタイミングで、最寄り駅の書店に立ち寄りました。小さな駅前の書店には似つかわしくない厚めのハードカバー本。中身をみるとズラリと並ぶ数式の数々。読み切れるかなぁと一抹の不安を抱えながらも、これも何かの縁と感じて購入。これが大変面白い。語りかけるような文体であったり、豊富な具体例や数式を利用した実際のケーススタディも随所に挟み込まれており、数学が苦手な文系出身の僕でも、ぐいぐい読み進めることができました。

概要

本書は、USJマーケティング責任者の森岡氏とシニアアナリストの今西氏の共著となっています。元々二人の出身はP&Gとのことなので、消費財の分野で培った数学的理論をベースに話が進んでいきます。森岡氏が戦略・マーケティング系の章を、調査・分析についての章を主に担当しています。森岡氏はUSJに入社後、企画成功率98%と驚異的な数値を残しており、本書ではその考え方がロジカルに学べる一冊となっています。

市場構造の本質は「プレファレンス」

本書は「確率思考」をテーマに置かれています。そして確率を操作するための最も重要な要素はプレファレンスであると主張されています。プレファレンスとは何か。端的に言えば消費者の個人的好意度であると定義されています。

プレファレンスとは、消費者のブランドに対する想定的な好意度(簡単に言えば「好み」)のことで、主に、ブレンド・エクイティ、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定されます。

<第1章 市場構造の本質 P.22より>

では、なぜプレファレンスが重要なのでしょうか。例えば、僕がポテトチップスを購入するときに、カルビーコンソメパンチにするか、コイケヤのり塩味にするか、はたまた山芳のわさビーフにするかはその時の気分によります。しかし、頭の中には、これまでの購買経験に基づく「なんとなくこのポテトチップスならこれを買うかな」というリストがあります。このリストをエボークト・セットと呼びます。このリストは、コンソメパンチは50%、のり塩30%、わさビーフ20%のように個人の好みにより購入確率がセットされています。そして年間の延べ購入回数分だけ、この確率に沿って購買が発生することになります。この状態は、学生時代に勉強する確率のサイコロ問題と同じ構造ですね。本書では、このエボークト・セットの上位に入ることが、売上向上の鍵であると主張されています。

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プリファレンスの数式

本書で一番感心した点は、このプリファレンスというものを数式でモデル化できているという部分です。その数式はNDA(負の二項分布)モデルとして紹介をされています。数式自体はとてもややこしく見えるのですが、企業がコントロールできる要素は「選ばれる確率」だけとなります。ですので、消費者のエボークト・セットに入り込み、サイコロの自社商品が出る目を相対的に上げることに全力を注ぐことが、売上アップの秘訣であると主張しています。98%の勝率はこの考え方から生まれたのですね。

売上の3要素

森岡氏は、一定の市場規模があるマーケットにおいて、売上を上げる戦略は3つしかないと主張しています。それは「プリファレンス」「認知」「配架」です。これらの要素はそれぞれが影響しあって、最終的な消費者の購買につながっています。

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では、なぜ本書では「プリファレンス」を重視しているかというと、「認知」や「配架」に対しては、取引先があってのことであり、取引先も最終的には消費者に従わざるを得ないのがビジネスの鉄則です。なので、「プリファレンス」が向上すれば、結果的に「認知」や「配架」も向上するというロジックです。前職では小売業に関わっていましたが、このロジックはとても納得感が高いですね。やはりお客様の声は無視できません。取り扱いがない商品でも、お客様から欲しいと言われたら入荷しちゃいますからね。「プリファレンス」の向上に注力するのはとても効率的な戦略かと思います。

まとめ

USJの事例にもあるように、この考え方は、消費財に限らず様々な分野で応用可能かと思います。B to Cビジネスでは威力を発揮するのでしょう。(一方、これが B to Bの場合、法人の好みは数学的に計算できるのか気になるところではありますね)

また、プリファレンスを重視する考え方は、ブログ運営にも応用が効くかと思います。日々の可処分時間の中で、読者の皆様のエボークト・セットの上位に食い込むことが必要なのかと考えるにいたりました。

 

【レビュー】データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」

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評価:★★★☆☆

書店に行くとビックデータ関連の書籍が賑わっていますね。僕が新社会人だった10年前に比べたら、大容量のデータを取り扱いながらも、分析ツールの性能向上により、分析自体は様々な角度からのレポートが可能となっています。しかし、データ分析が多様になればなるほど、逆に何を見ればいいのか、データ分析をどう活用すれば良いのかという悩みが発生します。そんな悩みを抱えている中で、ふらふら書店を歩いていたらこの一冊が目に入りました。本書に惹かれた一番の要因は、原題の「Sexy little numbers」という表現。ビックデータと騒がれている中、あえてリトルデータをぶつけてくるその真意はいかにという部分に興味を持ち早速読んでみることにしました。

概要

世界3大広告代理店の一つ、オグルヴィ・アンド・メイザー社。僕たちがよく使う「ブランド」という言葉を生み出したのも同社なんだそうです。本書の著書は、同社のデータ分析の第一人者でもあるディミトリ・マエックス氏です。彼が行ってきたデータ分析手法が、実在の会社での活用事例を交えて紹介されています。 

まずはあるものから分析する

原題のサブタイトルは「How to Grow Your Business Using the Data You Already Have」です。今持っているデータでどうやってビジネスを成長させるか。ですので、本書では、ビックデータやAIを活用した分析方法などは出ておりません。顧客に関する既存のデータにちょっとしたスパイスを加えることで、新しいメッセージが浮かび上がってくる事例が紹介されています。

米ホテルチェーンのシーザーズは、同社のホテルに対するウェブ上のカスタマーレビューを分析することで、広告予算のリターンを15%〜30%を増やすことに成功した。

中略

例えば宿泊客がホテルからの眺めを絶賛していることがわかれば、「眺めが良い」という点を広告上で目立つようにし、一方で価格については画面の下のほうにレイアウトするといった具合だ。

〈第1章 リトルデータでビジネスを成長させる P.25より〉

自分の会社で応用する時にも、実例が紹介されている分だけ、想像がしやすい中身となっています。

6つのステップ

本書は全8章で構成されています。1章は主にリトルデータの活用意義について、8章はデータ分析の未来について語っており、実務的内容は、2章から7章が主に担っています。それぞれの章立てがディミトリ流のデータ分析のステップとなっています。各ステップのタイトルに、その章で紹介されている具体策(《》の部分)を加えたものを紹介します。

  1. ターゲティング
    《最も利益に貢献する顧客の探索方法》
  2. メッセージ
    《消費者の興味を深く理解する方法》
  3. ロケーション
    《個人データを探す方法》
  4. 予算
    《投資回収モデルの作成と費用配分》
  5. 測定
    《分かりやすく有意義な測定結果の出し方》
  6. 最適化
    《A2A(分析からアクションへ)フレームワークの運用》 

これからのデータアナリストの道

最後の章で予言されている今後のデータアナリストの道は現在でも十分通用する予言かと思います。データアナリストは、細かい統計スキルの専門家になるか、その専門家のデータを活用して最大の成果を引き出す魔法使いになるか。中途半端な作業屋は自動化により淘汰されていくということです。僕も中途半端な作業屋で終わらないように、自分自身の価値を見極めていかなければなりませんね。

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まとめ

この本は2013年刊行されており、現在のテクノロジーよりも、紹介された内容はやや古めかと思います。ですので、スマホユーザーのデータ分析といった話題は掲載されていません。しかしながら、データ分析の具体的な考え方を学べる良い本でした。この本で具体的な考え方を押さえた上で、ビックデータ活用本を読んでみると、直近数年の技術トレンドの変化が分かるのではないかと思います。