オズの本棚

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30代中小企業診断士が自分が読んで役立ったビジネス書をご紹介。悩める若手〜中堅ビジネスマン向け書評ブログです。

【レビュー】IoT時代の衝撃

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評価:★★★★☆

巷でよく聞くIoTが、今後の企業行動にどのような影響を与えるのか。「モノのインターネット」と言われるIoTが題材なので、主に製造業を事例に取り上げられています。経営学では超有名人であるマイケル・ポーター氏が、自身の理論である5フォース戦略に沿って解説しているパートは読んで面白かったです。

概要

ハーバード・ビジネス・レビュー2015年4月号および2016年1月号のIoTに関する論文が書籍化された一冊です。内容はIoTの概要説明から始まり、IoTによる競争戦略の変化および企業組織構造の変化、そしてその実例としてGEの取り組み紹介、最後にIoT時代におけるデータ所有のあり方について、総勢6名の研究者の論文が掲載されています。

新しい競争戦略の選択肢

「計測できないものは管理できない」という有名な言葉がありますが、裏を返すと、「計測できると管理できる」ということですよね。これまでトラッキングのテクノロジーはWeb界隈で発展していましたが、インターネットへの接続機能を持つ製品が普及することにより、ビジネスが大きく変化することは想像に難くありません。本書では、そのような変化に対応するために、10個のチェックポイントを挙げています。僕が理解しやすいようにポイントを意訳しています。

  1. どのような機能や特性を追求するか
  2. 機能をハードに搭載するかクラウド化するか
  3. システムはオープンかクローズか
  4. 機能とシステムは内製か外注か
  5. 有益データの定義・収集・分析方法をどうするか
  6. データの使用権・アクセス権の管理をどうするか
  7. 流通チャネルを中抜きするか
  8. ビジネスモデルを転換するか
  9. データ販売による新規事業を起こすか
  10. 事業の範囲を拡大すべきか

上記のポイントは、相互に影響し合う要因ですので、企業自体がどのように変化していくべきかの方向性が必要となってくるのでしょう。当然ながら、本書にも次のような記述がありました。

製品ネットワークの数や多様性が増大し、各ネットワーク内で製品同士がコミュニケーションと協働を続ける状況の下、多くの企業は主な使命と価値提案を問い直す必要があるだろう。

<第2章 IoT時代の競争戦略 P.92>

これまでの延長線上の仕事をしていては生き残っていけないということなんでしょう。そうなると当たり前ですが、企業内部の仕事にも変化が訪れるわけです。

社内組織も変わる

本書では、既存の製造業において、統合型データ部門、開発運用部門、顧客成功管理部門という新たな部門の必要性を説いています。統合型データ部門は、データを取り扱う専門部署。開発運用部門は、R&D、IT、製造、サービスの各分野を統合する部門で、製品の更新やサービスの高度化などを部署横断型で取り組みます。顧客成功管理部門は、従来の販売・サービス部門ではインセンティブが働かない顧客体験の向上に取り組む部署です。これらは、ソフトウェア業界での組織体制を参考にしているようですね。モノのインターネット化なので、ソフトウェアの運用方法がしっくりくるのでしょう。

データを取り扱うために

僕が最も興味深く読み込んだのが、アレックス・ペントランド氏へのインタビュー記事「データは誰のものか」です。ペントランド氏はIoT社会が到来する前に、データ所有に関してのルールを整備しておく必要があると主張されています。この主張を「データのニューディール」と呼んでいるのですね。初耳でした。しっかり覚えておきます。

様々な夢が語られるIoT社会の大前提は、「データは企業に属する」ことが前提となっています。この前提が一転して、「データは個人に帰属する」となった途端に、ビジネスが破綻します。今後多くのビジネスでリスクとして認識されるのではないでしょうか。

まとめ

大局観を養うような本は良い思考の訓練になりますね。休日にゆったり読むことをオススメします。しかしながら、本書の論文が初めて発表されたのは2014年11月号のHarvard Business Review、日本版に掲載されたのが2015年4月号ですので、タイムラグが約半年弱。やはり最低限、英語は読めるようにならんと差がつけられることを実感した一冊でした。